『UN-GO』4話〜5話が急に面白くなってきた件

 故・坂口安吾氏の『明治開化 安吾捕物帳』『復員殺人事件』等を原案としながらも、ノイタミナ風に近未来設定に改変したので原作ファンの方とは違う見方かもしれませんけど(汗)

 4話というのは、佐々風守焼死事件の後半から解決編にかけてです
 (もちろん、椎名へきるが久しぶりに起用されたことを喜んでいるわけではありません)

 単純に探偵モノとしてみたら、その犯人やトリック的なものを評価しているわけでもありませんのであしからず
 (参考、金田一>コナン>GOSICK -ゴシック>ミルキィホームズ>>>>神様のメモ帳

 例えば探偵モノとしてではなく、たんにハードボイルドの観点だと『DTB』とか『ブラック・ラグーン』の世界観のほうが好みだったけど、どちらもアクションシーンが秀逸で2本柱になっていた両作に対して、『UN-GO』のように殺人事件はお飾りというか、あくまで問題提起のガジェット的な設定であって、奇しくも同ノイタミナの『C』と同じく見せ場は主人公や周囲の人間ドラマだけを愛でればいいのだろう。そうすれば、いちいち野暮なツッコミを入れなくてもすんなり楽しめる



 UN-GO』 第4話〜素顔の家〜
 事件は(以下略)一時冷蔵庫からパンダのぬいぐるみにメインプログラムを移した最後の人工知能R.A.I(ライ)の登場で、見る目が変わったと言っても良いですが、それと同じくらい主人公に対して感情移入できるようになったことが大きい。

 「俺は戦場に行った。そこでいろんなモノを見た。だからアンタの言うことはわかる気がする」
 「人間は美しいものや楽しいことを愛する。贅沢や豪奢を愛し成金が大邸宅を作るように、優れた科学者が自分の理想を実現するのも、それは万人の本性であって、業も軽蔑するべきところではない」
 「人間は美しいもの楽しいこと贅沢を愛するように、もうひとつ、正しいことを愛する」
 「なんなら正義と言ってもいい。男が美女を愛し女が贅沢を求め、あらゆる悪いことを欲すると並列に、ヒトは正しいことを愛する生き物だ」
 「誰でもヒトに言えないような欲望を持つ。そんなの当たり前だ。じゃあ、アンタの正しさはどこにある?」

 これらは、人工知能に罪をなすりつけようとしたロリコン開発者に対して、主人公らしい正義の説教炸裂の抜粋です。わざとカメラを動かして自らの存在を気づかせようとした佐々風守(CV:松本まりか)の「正しさ」を裏付けた絶妙の推理劇。さらに「インガ行くぞ」と帰る寸前でのちょっとした一言がイカしている。
 「カザモリ、お前はどうする?」「私に、できることがありますか?」「俺たちはただ生きて、堕ちるだけだ」ここで「はい」と短く答える風守。この瞬間、思わず彼女と一緒に肩の荷が下りた。解説するのも野暮なので総論だけ→今回の話は7年前爆死したはずの開発者自身、被害者は自衛軍工作員だったというオチで、事件そのものはたいしたことではないけど、とある視聴者の傾向をトレースした被害者像と、それに相対する主人公のハードボイルドな回答。そして風守加入までのアプローチが神掛かっているとしか言いようがなかったー



 UN-GO』 第5話〜幻の像〜
 彫像の中から死体=文字通りトロイの木馬事件。というより、今回も特に、主人公の人間性に打ちのめされた。いきなり探偵としてあるまじき先入観での容疑者ハズレには驚かされたが、もちろん彼の成長というか進化というか現状維持の軌道修正を追う形式である。テロ事件を「尊い美談」として語る右翼団長に対しての超私的バイアスに関しては、しかし単純に否定もできない。
 そこで出番はR.A.Iことカザモリ嬢だ。インガにヒトを殺させないための条件として御霊=真実を食わせる契約をした主人公の結城新十郎

 「それは、他の人のために命を捨てることじゃないですか?」
 
 冒頭のよそ行きドレスも素敵だが、いつものパンダ人形で分析する姿もギャップを誘ってくれた。「俺はそんな立派じゃない」「私の中ではほぼ同一です。パーセントで言いましょうか?」と引導を渡され、敗戦探偵は我に帰ったわけですが。これには激しく同調せざるを得なかった。そして何より正論と引き換えに諦めのダブルパンチを食らってのノックアウトで逆に立ち直るなんて正義の主人公を見たことがない(笑)。なるほど敗戦探偵というだけのことはある。「ほぼ同一、だが一致ではない」という点での吹っ切れ、つまり・・・その誤差は「いま、生きているか死んでいるか」だったんだろう

 「人は他人のために命を捨てられることもある。だからといって俺やアンタが偉いわけじゃない」
 「偉いのは、美しいのは、死んだ彼らだけだ」

 そして深読みするなら、こんな回答も成り立つ。主人公にとって、探偵業とは使命感というより欲望のような矮小な意味合いであって、他人のためにインガを離さない100パーセント善人ではないという自分査定なのだ。前半Aパートでは「俺が暴きたいのは汚らしいウソだけだ」とキザな台詞を吐きつつも、立ち直ったBパート後半に「俺は美しいものを汚しにきただけです」と改めて軌道修正しているように。インガと自分の趣味が偶然一致しただけ。カザモリの分析すら過大評価なのだ。そしてそれを正面から受け入れる戯言が心地よい。ちなみに金塊は戦車の中。被害者の血液は彫像に付着。カザモリの万能性「人間の血液です」にも今後の活躍の幅が期待できる機能性である(垂涎)

 ただ視聴者にとっては説教臭いと嫌悪するひともいるだろう。それはそれで仕方ないとも思うけど、少なくともボクはハードボイルドの見方が変わった・・・
 僭越ながら、フィリップ・マーロウやチャンドラーをはじめとする王道探偵ものは、個人的にあまり好きじゃなかった
 
 高野和明の『13階段』とか藤原伊織の『テロリストのパラソル』は面白かった。特に二階堂黎人の「ボクちゃん探偵シリーズ」は大のお気に入りという例外はあるものの、総じてボクの中ではミステリor殺人事件を引いたら残るのは村上春樹的な?そういう美学があまり好みではなかった。直木賞を取った桐野夏生の『顔に降りかかる雨』にしても、ちょっと共感は呼ぶには気取りすぎたし。むしろ二郎遊真の『マネーロード』みたいな引きこもり型の主人公や、仮面ライダーダブルの「ハーフボイルド」だったら望むところなんだけど(褒)

 なんと言ったらいいだろうな、と考えていたらふと思ったのは98年に放送された『カウボーイビバップ』だった

 スパイクが結城新十郎、フェイとエドを足して2で割った役割がインガ、そしてデータ犬のアインが人工知性R.A.Iの風守みたいに準えるとしっくりくる(笑)。そうするとジェットは海勝梨江ということになってしまうのはご愛嬌である。ついでにレッドドラゴンの幹部ビシャス=JJシステムの会長「海勝麟六」を最大の宿敵に置いているのも頷けるじゃなイカ